Kindleで購入した本を所有することはできない

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以前書いた「アマゾンがユーザーのアカウントとKindleデータを削除?」という記事について、NBC Newsにもっと詳しい事が書かれていました。

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嵐の夜、もし近所の本屋さんの店員が家を訪ねてきて、何も言わずにそのお店で買った本を捨て始めたらどう思いますか? 抗議も受け入れられません。

リン・ナイガルドの身に起きたのはこれに近いことです。まぁ部屋にずかずか入ってこられた訳ではないですが。実際に彼女に起こったのは、何の説明もなくKindleアカウントが停止されたため、Kindleで購入した本データにアクセスできなくなったという事です。

ナイガルドさんがNBCに話してくれた内容はこうです。

2週間前、Kindleの画面に筋が入るようになったので、アマゾンのサポートセンターに電話したの。そして、Kindleを無料で交換してくれるって言われたのよ。でも、交換のKindleはイギリスにしか配送できないって言われたわ。もともとイギリスで買ったものだからって。だから明日までにイギリスの住所を探してそちらに教えるわ、と伝えたの。私自身はノルウェーに住んでいるけど、ロンドンに住んでいる友達に頼もうと思ったの。

その時点ではナイガルドさんはアマゾンの対応にすっかり満足していました。Kindle電子ペーパーに筋が入ってしまうという現象は2台目だったのですけどね。でも次の日にアマゾンのアカウントにアクセスしようとしたら、アカウントが停止されていました。そして43冊の本にもアクセスできなくなっていました。

親切な電話のサポートセンターの人たちもナイガルドさんのアカウントにアクセスする事はできず、彼女はアカウント・スペシャリストとやり取りをするように言われました。連絡手段はメールのみです。

そうして、物事がカフカエスクになっていくのです(ナイガルドさんの友人のマーティンがブログで使った言葉で、カフカの小説のように不条理なという意味です)。

Amazon.ukのエグゼクティブ・カスタマー・リレーションズを名乗るマイケル・マーフィーという人がナイガルドさんに連絡してきて、彼女のアカウントは削除された事とその理由を告げました。理由は彼女のアカウントが 「アマゾンの規約に反して過去に停止された他のアカウントと直接関連づけられている」 ためだそうです。何の規約でしょうか?  そして他のアカウントとはなんでしょうか? マーフィーは答えませんでした。それどころか、こんなメールを送ってきたのです。

アマゾンの利用規約に書かれている通り、アマゾンは、その裁量の下で予告なく、サービスの拒否、アカウントの停止コンテンツの削除と編集、ご注文のキャンセル、キャンペーンまたはプロモーション等の変更および停止を行う権利を留保しています。また新しいアカウントを作ろうとしても、同じことが起きるということをご承知ください。

話を台無しにするようですが、この後ナイガルドさんはハッピーエンドを迎えます。この話を公にした後、アマゾンは誤りに気づいて彼女のKindleライブラリを復活させたのです。今は新しい替えのKindleが届くのを待っている所ですが、iPadでなら読む事ができる状態だそうです。





ナイガルドさんの件についてはこれでいいでしょう。でもアマゾンにはもうちょっとつき合ってもらいます。

我々が月曜日に問い合わせた所、彼らはカスタマー・フォーラムに書き込まれたのと同じ文言を返してきました。「 アカウントの状態によってカスタマーがライブラリーにアクセスできなくなるということはありません。」(アマゾンはコピペが好きなんでしょう、きっと。)

そして、どうしてアカウントが停止された理由を彼女に言わなかったのか、という質問に対しては未だに答えがありません。そしておそらく、もう返信はないと思います。ナイガルドさんはアマゾンのような巨大な企業にとってはに等しいのです。でも、この事件によって私たちが知っておくべきことが明確になりました。私たちはデジタル製品を所有することはできないということです。そうではなくて、それは借りているのと同じです。そして貸している側が取り締まりを行えるのです。

Boing Boingのコーリー・ドクトロウはこんなコメントをブログにアップしました。

利用規約には、ユーザーは本を読む権利が与えられるだけで本を所有しているわけではないという条項が必ずある。ということは「購入」というボタンを押しても、何の説明や警告もなしに、本を読む事ができなくなる可能性がある。それに、「購入」といっても実際には条件付きライセンスが付与されるだけだし、1クリックで注文という言葉も、1クリックで条件付きライセンスという言葉にしたらどうかな。

ここで問題は意味論になってきました。「購入」と書かれたボタンをクリックした場合、何かを購入することを期待します。しかし実際には購入したわけではなく、ライセンスを発行されただけなのです。

昨年、アメリカの最高裁判所ファーストセール・ドクトライン(頒布権の消尽)はソフトウェア、電子書籍、アプリ等、オンラインで購入して実際に段ボールで届くわけではないものには適用されないと決めました。長い長いユーザー利用規約読んでから、新しいソフトウェア使いますか? まぁでもこれは法的に有効でしょう。だって(たとえ読んでないにしても)ユーザー自身が「同意」というボタンをクリックしているわけですから。でも「購入」ボタンが実際には「貸与」という意味なのはどうなんでしょう?

私は、販売側がクリックするボタンに本当の事を書くべきだという意見に正当性があるか知りたくなったので、知的財産担当弁護士のセス・グリーンステインに聞いてみました。彼は2年程前に電子書籍の2次販売についての記事を書いています。以下は彼がNBC Newsに送ってくれたメールです。結論という感じではありませんが何だか複雑なんだなという事は分かります。

アップルやその他のオンラインでの販売業者の販売品は販売契約の内容を含んだ利用規約に基づくものです。iTunes Storeで購入した曲を再生できる機器の数は限られているし、電子書籍を見る事のできる機器も限られています。条件付きの販売なのです。そしてこの条件は同意したユーザーにしか適用されません。だから第三者がとやかく言うことはできません。

パテント的な話をすれば、最高裁ファーストセール・ドクトライン(頒布権の消尽)が条件よりも優先されるかという事で判断しています。こういった問題は、シングル・ユース・オンリーと書かれた製品によく生じます。契約法(contract law)によれば、この条件は購入者にのみ適用されますが、特許法(patent law)によると全員に適用されます。私が実際に扱ったレックスマーク(米国のプリンターの会社)の訴訟の例をあげましょう。

レックスマークはインクカートリッジの箱にシングル・ユースと書いて出荷していました。そうすることで、インクのカートリッジを回収して、洗浄し、新たにインクを入れて安く売るというインクカートリッジの中古販売業を制限しようとしたのです。特許法が適用されれば、レックスマークは中古業者が権利を侵害していると主張することができます。もし適用されなければ中古業者のやっていることは合法です。このケースでは裁判所は、ファーストセール・ドクトライン(頒布権の消尽)がシングル・ユースという制限よりも優先されると判断しました。



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ナイガルドさんの事件を茶番だなと感じている人もいると思います。数百ドルのものに対して、公共の場でわぁわぁ嘆き、そして元通りになったわけですから。でも実際に自分の身に起こったらきっと腹が立つと思います。アマゾンはアカウントの状態に関わらず、ライブラリにはアクセスできると言っているものの、アカウントが停止されている状態では新しい機器にコンテンツをダウンロードすることはできません。

またナイガルドさんの説明によると「マーフィーさんにメールする前、私はウェブからもiPhoneからもログインする事ができず、Kindleの画面は壊れていたので、購入した本を読む事は全くできなかった」そうです。

たとえ世界中の政府が、消費者はデジタル商品を所有することはできないという事を認めているのだとしても、少なくとも、アマゾンみたいな会社に真実を明らかにするように指導することはできると思うんです。彼らが「売っている」と称しているものは実際には「貸しているだけである」という事実を。そうすれば、消費者も価格について適正な判断ができるはずです。突然消される可能性があるこの本のデータを借りる対価が15ドルというのは適正なのかどうかということをです。

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いかがでしたか? ちょっと電子コンテンツに対する不信感が生じました。でも一方で注文したKindleをワクワクと待つ自分もいます。コンテンツがいきなり削除される可能性が広まったら値段が劇的に下がったりしないかな。



Joel Johnson - NBC News(原文/mio)

 








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